準備してリビングへ向かうと甘い匂いが漂ってきた。
「あ、フレンチトースト。」
「あ!おはよう!」
「うん、おはよ。」
食べていいのかな。
チョコレートがかかっててすごく美味しそう。
「緋山君、嬉しそうだね。」
「うん。」
「私も甘いもの好きだから、今度お店で買ってくるね。」
「うん。」
兄さんとかによく言われるけど普段表情が変わらないくせにこういう時には変わるらしい。
「あ、緋山君。」
急に名前を呼ばれ後ろを振り返ると、右手を差し出している哀川さんの姿。
「何。」
「私の目標が人に触れるようにすることなの。だから、手伝ってほしい。」
「別にいいけど……。何するの。」
「まずは、握手から、おはようの握手からがいいな。」
「握手ね。分かった。」
そして哀川さんの右手に自分の左手をゆっくりのせる。

微かだかまだ手が震えてる。
指先も冷たい。
「緊張してる?」
「あ、え、少しだけ……。」
「今日はここまでね。」
「うん。」
「明日もやるんでしょ。」
「迷惑じゃなかったらいい?」
「迷惑も何も、簡単なことだから別にいい。」
「ありがとう!」

お互い、昨日のことについては触れない。
だけど、哀川さんは成長しようと、苦手を克服しようとしていた。

「哀川さん。」
「ん?」
「頑張れ。」
「あ、ありがとう!!」
自分から応援したのは何年ぶりだ。
普段は何も興味無いから。
特に人との関係について。

でも、なんか、哀川さんは、応援したくなるんだよな。