午後一時、四人で最上階にある大会議室に向かう。
亜樹ちゃんと凪くんは見るからに緊張していて、意外とほっちゃんが一番おちついているように見える。

百人は入れそうな会議室に溢れんばかりの人がいて、用意された椅子では足りず、みんな壁際で立って発表を待っていた。

その中に、森下さんの姿もあった。
こちらには気づかず、ほかの社員の人と話し込んでいる。
おじさんの姿もあって、チラチラとこちらを見ていることにも気づいていたけど、その存在など見えていないかのように振る舞った。

大会議室の前には大きなスクリーンがあり、その前には大きな机とマイクが置かれている。

「みなさん、ご苦労様です」

白髪頭の小柄なおじいさんが出て来てマイクの前に立つと、みんなが一斉にお辞儀をして、私も慌てて頭をさげた。

あのおじいさんがどうやら社長らしい。

「今回の社内コンペは総数二百二十八件の応募がありました。社員全員の企画力の向上と社内の活性化を目的として開催しておりますが、毎年決まった部署からの応募が多く、その点は非常に残念ではありますが、今年も優秀な作品が何点も上がってきており、大変うれしく思います」

おじいさんがゆっくりと会場を見回した。
会場の空気がぴりっと張り詰める。

「それではさっそく佳作から発表いたします」

秘書らしき男の人が、おじいさんに書類を手渡すと、おじいさんは眼鏡をかけてからそれを読み上げた。

「佳作は商品企画部所属、前野雄一(まえのゆういち)くんの商品で、芯の折れないシャープペンシルです」

大きな拍手があがった。
うながされてひとりの男の人がおじいさんの隣にたった。
この人が前野雄一という人なのだろう。

「このシャープペンシルは芯が0.2ミリと極細でありながら、芯を出さずに書くという画期的な方法で芯が通常のものより折れにくくなっております。大変すばらしい。しかし、商品化するならもう一工夫ほしかった。よって惜しくも佳作です。次回に期待しております」

おじいさんがお祝いの言葉をかけ、前野さんは嬉しそうにほほえんだ。

「折れないシャープペンシルか……」

隣で凪くんがつぶやく。