社内コンペの結果発表の日が来た。
それは同時に私にとって最後の日でもある。

朝、いつもより早い時間に書類整理課のドアを開けると、もうすでに他の三人は出勤していて、それぞれ自分のデスクに座っていた。

みんな表情が固く、背筋を不自然なほどピンとのばして、電源の入っていないパソコンを見つめている。

「おはよう!」

緊張をほぐそうと、ひとりずつ肩を叩いていく。

「やばい……昨日は全然寝れませんでした」

凪くんが大きく息をはいた。
寝れなかったのは私も同じだ。

社内コンペの結果が気になるのもあるし、今日でこの世界ともさよならなのだ。
最後にやり残したことはないかと考えたけど、結局私は特別なことはなにもしなかった。

こどものころ、今日が地球最後の日だったらなにする?という話題をともだちとしたけど、案外人間というものはこんな感じで最後の日を過ごすのかもしれない。

「ため息つくな!」

亜樹ちゃんがすかさず怒ると、凪くんは「ため息じゃない、これは深呼吸だ」と言い返した。

結果発表は午後一時から、同じビルの大会議室で行われるらしい。

「企画を出した人だけじゃなくて、社員なら誰でも入れるらしいんですけど、私今までこんなのしてることすら知りませんでしたよ」

亜樹ちゃんが言うと、他の二人もうなづく。

時間はゆっくり流れた。
確認依頼をこなしながらも、視線は自然と時計に向かってしまう。

早く時間が来てほしいような、それでいて今日がなるべく長く続いてほしいような気持ち。

私はゆっくりと倉庫内を見回して、ここで過ごした三十日間のことをひとつひとつ思い返してみる。

今日の結果がどうであれ、この三十日間に関しては私は後悔なんてしないだろう。
陽子さんにもこの気持ちが、この記憶が届きますように。

最後の日のランチに、私はもう一度、社員食堂に行こうと提案した。
最後の日というのはもちろん私にとってであって、他の三人には関係ないことだから言わなかったけど。

初めて陽子さんに憑依した日にも来た社員食堂は、今日も相変わらずお日様の光が大きな窓からいっぱい差し込んで明るかった。

「今日の日替わりは……和風オムライスきのこソースだそうです!」

オムライス!
私は手を叩き「それにする!」とはしゃいだ声を出してしまう。

私はお母さんの作るオムライスが大好きだった。和風とかきのこソースとかそんなしゃれたオムライスじゃなくて、チキンライスを包んだいわゆる普通のオムライス。
好きな食べ物がオムライスだなんて、まるで小さなこどもみたいだけど。

最後の日にしたいことはこれといって特になかったけれど、最後の日に食べたいものならあった。

それはきっと、お母さんのオムライスだ。