駅のところで森下さんと手を振って別れる。

これから森下さんはあの街に帰るんだな、と思った。
私はここからそう遠くない自分の住んでいた街に思いをはせる。
今すぐ森下さんと同じ電車に乗ってあの街に帰りたいと思った。

駅前のコーヒーショップに、もしかしたらともだちがいるかもしれない。
下らないことで涙が出ちゃうほど笑えるともだち。

駅から家までの道を思い浮かべる。
改札を抜けたらすぐ左へ。
たこ焼きやさんの前を通りすぎて、ドラッグストアーも通りすぎて、そのまままっすぐ。
そうすると、交差点があるからそれを右に。
しばらく歩くとそこが私の家。

お世辞にもかっこいいとは言えないけど、のんびりとした性格のお父さんと、お料理とおしゃべりが好きで、世話好きのお母さんと、頭が良くて引っ込み思案だけど芯の強い妹がいる、我が家。

もう、帰ることはできない、我が家。

細身のスーツ姿の森下さんが改札を越えて階段を上っていく。
その背中を私は見えなくなるまで見送っていた。