「それは無理です。選べません」

「どうして選べないの!?」

「そんなに大きな声を出さないでください」

今度はサトルがしかめ面をする。

「憑依される人間は自動的にコンピューターが決めるんです。憑依される側にはなにか法則というか条件があるようですが私にはわかりかねます。部署が違うのでね。あ、部署が違うからといって私にはわかりませんでいいのかと聞かれればそりゃあよくはないですよ。でも、この制度自体、使うのが初めてなんだから致し方ないでしょう!? それに最近は個人情報保護法というものもありまして」

うすうす気づいてはいたけど、こいつ言い訳になると早口になるタイプだ。

「はいはい、わかった。で、これから私はどうなるわけ? 煙みたいなのになって、人の体に入るのかな?」

「いえいえ、この扉を出るとその人の体に憑依するみたい……憑依します」

「どんな人なのか、憑依してからわかるってこと?」

「ええと……いや、お待ちください」

そういってタブレットPCを操作するサトルを見るのはここに来て何回目だろう。

「あ、なんだ。ここに載ってるのか。……ええと、松川陽子(まつかわようこ)さん、都内で一人暮らしをするOL。会社での肩書は課長。未婚。三十八歳。以上です」

「さ……三十?」

「八です」

「三十八歳!?」

「ええ」

「私……十八歳なんだけど、三十八歳になるの?」

「ええ、正確には十八歳だった、ですね」

ちなみに、とサトルはタブレットPCを操作してから私に見せる。

「これが今現在の藤木様のご様子です」

―――今日は私のお葬式みたいです―――