『俺に勉強を教えてくれ』──とセイから言われたあの時、勢いに飲み込まれて、俺は曖昧にも「ああ」と答えてしまった。
 もっとよく考えて発言すべきだった。

 俺も人に教えている余裕なんてないし、中間テストだってそんなに遠くない。
 今の成績をキープするためには気がぬけないし、それなりのプレッシャーもあるから、納得がいくまでやらなければ俺も油断はできない立場だ。

 それなのに俺は人に教える暇があるのだろうか。

 あの雰囲気の流れでは断れなかったし、あの後セイの表情が緩んで、俺を見つめる目に希望の光が宿って煌めいていた。

 それが俺に心を許した瞬間にも思えて、俺もまんざら嫌ではなかった。

 しかし後になって、何をどうすればいいのか悩んでしまう。
 そんな俺を助けるように、その次の週の月曜の放課後、ノゾミが俺の前に現れ具体的な提案をしてきた。

 奇しくもその日はノゾミが俺に告白してきてから一週間経った日でもある。

 まだ一週間しか経ってないということが信じられなくなるくらい、ノゾミと知り合ってからは振り回されてばかりの日々だった。

 出会った感傷に浸れるほどロマンスなど何も発生していない。
 いい雰囲気になっても、ノゾミの鼻血でそれは邪魔された。
 ちょうどそれが起こった場所──俺たちは例の屋上にやってきていた。

 まだドアが開くのか、それを確かめたい気持ちもあって、自然とそこに足が向いていた。

 誰にも気づかれないように、周りを気にして階段を上ってきたのだが、一度に4階まで上がってくると、ノゾミには堪えたようで少し息切れしていた。