ゆっくりと近づいて、セイが肩に掛けていたスポーツバッグの取っ手の部分に、水色のマカロンのマスコットをつけ出した。

 セイはされるがままにじっとしていた。
 それが終わると同じように俺の鞄にも一つ付けた。

「おい、なんで俺がピンクなんだよ」

「セイ君はやっぱり青系統って感じでしょ。味はブルーベリーかな。私はピスタチオのマカロンが大好きだから緑がいい。そして天見先輩はその残りになっちゃいました。これはイチゴ味かな」

 ノゾミのバッグにはすでに緑色のマカロンがつけてあった。
 色違いの同じ物を鞄に付けると絆が深まるような、特別な仲間に思えてしまう。
 パステルの色合いも優しく目に映り、ノゾミのしたことになんだか心がくすぐられた。

「セイ君、このマカロン大切にするね。ありがとう」
「こればっかりはセイには適わないよな。ピンクだけど、今日の記念に俺も有難く貰っておくよ。サンキュー」
 一応礼はいっておかないと。

「別に大したことねぇよ。ただ運がよかっただけだ」

 無理に絞り出したセイの声は、まだ気持ちの切り替えが難しそうだった。
 セイもこの瞬間が悪くないから、素直にそれを表現するのが悔しいのだ。
 プライドが邪魔して捻くれてしまう──

 俺にはそれがよくわかる。
 自分に似た共通点があった。

「でもその運も、お前がしっかり見てそれを手に入れた。すごい事だと思うぞ。何も考えないで行動してたらその運も来なかったよ」

 セイは戸惑っている。
 俺の言葉は少なくともセイの心に刺さったようだ。

 セイは再び俺をじっと見つめていた。
 俺を吟味しているような、まだ色々と知りたいような、俺の中に入りこもうとしている目だった。

「俺に見る目があるならば、嶺を見込んで頼みたい事がある」
「なんだ」

「俺に勉強を教えてくれ」
 意外でもあり、学生らしい頼みでもあった。

 だが、何を根拠にいきなりこんな展開になるのか。
 どんどん迫ってくるセイに、俺の方が戸惑ってしまった。