俺がノゾミとこの先も付き合っていきたいと願ったその日。
 あまりにも唐突に、それは終わってしまった。

 一体どういうことだ。
 俺はその晩、ノゾミが作ったケーキをテーブルに置いて、じっと見つめていた。
 母がそのうち戻ってきた。

「あら、かわいいケーキね。買ってきたの?」
「いや、それが……」

 ノゾミの事を話した時、母は大げさに声を上げた。

「ああ、ノゾミちゃんか。嶺がレスポワールの事知ってたなんて、しかもノゾミちゃんと仲がよかったなんてびっくりだわ。あの子とてもいい子よね」
「俺の方が、お母さんがレスポワールの常連と知ってもっと驚いたっていうの」

「一度ここにも来てくれたでしょ」
「えっ、ここに来た?」

「あら、覚えてないの? 昨年のあなたの誕生日にケーキ届けてくれたでしょ」
「ノゾミが?」

「ほら、いつも嶺の誕生日は、売れ残ったクリスマスケーキばかり買ってきてさ、それであなたが、嫌がって誕生日にケーキはいらないっていったでしょ。それをレスポワールに行った時、成り行きでノゾミちゃんに話したことがあったのよ。そしたら誕生日ケーキ作らせて下さいって言ったの。ノゾミちゃん、願いが叶う幸せのケーキを是非試して欲しいっていったの。私が仕事でその日取りに行けないからって断っても、配達しますとか言って、断りきれなくてご厚意に甘えたの。ほら覚えてない?」

 母は、食器棚の引き出しを開けてごそごそすると、中から何かを取り出した。

「あったわ。ほらこれ。ケーキについてたでしょ」

 それはl’espoirのロゴを形どったろうそくだった。
 ノゾミが言っていた初期のデザイン。
 全てがろうそくで作られている。
 これがうちの家にもあった。

「使わなかったから取って置いたの」

 俺はそれを手にして、じっと見つめた。
 おぼろげにあの時の事を思い出す。