ユメのアパートは、少し賑やかな場所から外れ、入り組んだ下町みたいなところにあった。

 景観を意識して整備されたセイの高級マンションが立ち並ぶエリアとは対照的に、こっちは庶民的な、昔ながらの整備されていないごちゃごちゃした街並みが広がっている。

 それでもこの辺りは決して安いとは言えないらしく、駅周辺だけあって見掛けが悪くても値ははるようなことをユメは言っていた。

 そこでもある程度妥協できて自分が払える範囲の部屋を探し、ユメは少し古めのアパートの一室を借りていた。

「住めば都よ」
 あっけらかんとして、俺を部屋に招き入れてくれた。

 外装も内装も古臭さを感じるが、掃除が行き届いていて、とてもきれいだった。
 大きさにしたら、自分が住んでる部屋と変わらない。
 恐縮しきって、体が縮こまっていると、ユメにバシッと背中を叩かれた。

「何遠慮してんの。私がいいって言ってるんだから、リラックスしなさい」
 ユメはわざと何事もないようにふるまっているのかもしれない。

「ありがとうございます」

 ベッドのある部屋に連れられ、カーペットが敷いてある床に腰掛けた。

 飲み物を提供されたけど、何もいらないというと、「お酒が飲めるチャンスだよ」とからかってくる。
 俺はユメのこのノリにはついていけない。

「俺、始発が出る頃に帰りますから」
「何言ってるの。明日は休みでしょ。ゆっくりしていけばいい」

「ユメさんだって、折角の休みだし」
「私も別にすることないから、大丈夫よ」

 ユメはあれから下北から連絡が一切なく、全てはすっきりと片付いた事を知らせてくれた。
 俺のお蔭で全てが上手くいったと思い込んでいて、それで今度は恩返しのつもりだった。

 ノゾミにも心配するなと一応連絡を入れ、俺にスマホを向けて、喋るかと勧めてきたが、俺は軽く首を振った。

 電話を切った後は、少し難しい顔をして俺と向かいあった。