お兄ちゃんのワイシャツから?なのか髪からなのか。その日はほんのりと甘い匂いがした。

その日の「それらのこと」「すべてのこと」をわたしは死ぬまで忘れない。

お兄ちゃんの横顔、お兄ちゃんの髪の色、お兄ちゃんの笑い声、お兄ちゃんの歌声、
お兄ちゃんを取り巻いた煙草の煙の匂い、お兄ちゃんとふたりで笑い転げたこと、すべてを、だ。

それは一九七十年代のある年、四月二十四日の金曜日のことだった。