お兄ちゃんが奥から持ってきてくれたのは自分が読み終えた
ばかりという「ロミオとジュリエット」の文庫本だった。

わたしも題名だけは知っている。でも、読んだことはない。

それはいかにも誰かが読んでいた、と思わせるもので
なぜだか男の子には不釣り合いな花柄のカバーがかけてあった。

「新品じゃなくてごめん」
とお兄ちゃんはわたしにあやまる。

でもわたしには「それ」が良かったのだ。
本屋さんで買ったばかりの新しい本ではだめなのだ。

お兄ちゃんが読んでいた「お兄ちゃんの本」だから
わたしにはなによりうれしいのだ。