アルフォンスは、謁見の間で自身の身体の数倍はありそうな大きな玉座にどっしりと腰を落としていた。


「レイフ・ド・フォンテーヌ公爵がおつきになりました」


 すでに、レイフはアルフォンスの前に跪き、頭を垂れている。レイフの到着など耳打ちされるまでもなく、わかりきったことだったが、アルフォンスはちらりとレイフに視線を落とすと、間をおいて声をかけた。


「レイフか。よく来たな。体調はどうだ」


「はい。陛下にお呼びいただき光栄です。相変わらず、寝たり起きたりしております」


「ほう。そうは見えぬがな」


 アルフォンスは、足を組み直して肘掛けに肘を置いた。レイフは、姿勢を崩さず、下げた頭の下でわずかに眉間にしわを寄せた。


「ところで、レイフ。お前は、黒衣を着た盗賊が出没しているのを知っているか」


「はい、存じております。貴族を狙って金品を強奪するとか」


 アルフォンスの狙いがわからず、レイフは慎重に言葉を選んだ。彼が個別に自分を呼び出すなど、全く初めてのことだったからだ。


「そうだ。実は、三ヶ月ほど前に、ペンプルドン侯爵家にもかの者が出没しているのだ」


「なんと、執政官長殿のお宅にもですか!」


 レイフは、驚いたように顔を上げ、声を張り上げた。


「小者と思い、気にも留めていなかったが、近頃目につくようになってきたのでな。そこで、お前を呼んだわけだ」


「と、いいますと?」


 レイフは、アルフォンスの考えが読めなかった。父の死後、体調がすぐれないことを理由に、引きこもっていたため、直接アルフォンスと会話するのは十年ぶりのことだった。本当に体調を崩していたのは、ランベールの死からひと月ほどだったが、そうするほうが自分の身を守ることにもつながると知ってからは、努めて公の席には出ないようにしてきた。


 アルフォンスにとっても、レイフがどんな人物に成長しているかわからないのは、同じはずだった。しかし、アルフォンスは、レイフが壮健な若者であることを前提としているかのように命じた。


「レイフ。お前を仮面の盗賊の討伐隊隊長に任命する。見事、捕えてみせよ」