「そのまま売ると足がつきやすいから、ペンダントはばらして売るんだよ。台座も結構いい値になるからな」


 少年は、人差し指で鼻の下をこすりながら人懐っこい笑顔を向ける。


「宝石と台座を外したら、間からそれが出て来たんだ。あのペンダントあんたの大事なものなんだろ? レイフがそう言って買い戻していったんだ。けど、その時はこの紙のことすっかり忘れてたんだ」


「そうだったのね。わざわざありがとう」


 ケイトリンにお礼を言われ、少年は、頭をかきながら少しはにかんだ。


「ペンダント盗って悪かったな。あんたがいい人だって思わなかったからさ」


 マノンがケイトリンに近づいて来るのに気づくと、少年は素早く走り去った。


「ケイト様。どうかなさいましたか?」


 マノンは逃げるように背を向けた少年の後ろ姿を見て、怪訝な顔をした。


「いいえ、なんでもないの。さぁ、そろそろ帰りましょう」


 自分の部屋に着いてすぐ、ケイトリンは少年に渡された紙切れを開いた。綺麗に折りたたまれたそれは、主の几帳面な性格を表しているようだった。


 ケイトリンは宝物を見つけた子どもの様な気分で、そこに書かれている文字に目を落とし、次の瞬間、氷漬けにされたように動けなくなった。


『兄上様は次代の王にレイフ王子を指名なさいました』


 見覚えのある懐かしい文字。それは、ケイトリンの母シャンタルの文字だった。