仮面の盗賊は、レイフなのだろうか。もしもそうだとしたら、なぜレイフはそんなことをしているのか。そして、自分を敵だというのは、父のことが関係しているのだろうか？


　いくら考えても、答えがでるはずもなかった。


　その時、ケイトリンたちが進んでいる方角から、数人の子どもたちが人ごみをかき分けながら、走ってきた。ケイトリンの正面に突如現れたその集団は、彼女のすぐ脇を風のようにすり抜けた。その中でいちばん小さな少女が、ケイトリンの足元にぶつかった。


「うわーん」


　少女は地面に倒れると、派手に泣き出した。ケイトリンは慌てて道端にしゃがみ込む。


「ごめんなさい。大丈夫？」
　

　少女は、両手で顔を隠し、首を横に振るばかりで泣きやむ気配はない。ギースが少女の体を抱き起こして立たせようとしたが、彼女はますます大きな声でわめき始めた。


　何かあったのかと行き交う人々が足を止め、自然と少女の周りに円形の人垣が出来る。ケイトリンは、少女が大きな怪我をしたのではないかと心配になった。


　少女に気を取られていたせいで、彼女の背後から、少女と一緒に走っていた年長の少年が近づいているのに、誰も気付かなかった。その少年は、ケイトリンの首元にそっと手をやると、素早い動きで音もなくペンダントを奪い取った。そのまま何食わぬ顔でその場を離れる。

　少女は、うっすらと目を開け、少年が立ち去ったのを見ると泣き止んで立ち上がった。


「痛いのはどこかしら。足を見せてくれる？」


　ケイトリンの問いには答えず、少女は一瞬のうちに大人の足元にある隙間を見つけると、その間を縫うように走り去った。


「あ、待ってちょうだい！」