「おっと! そこの道行く美しいお嬢様方。あなた方の指にふさわしい素敵な指輪はいかが? ミルドの執政官長ロッソ様のお嬢様、ケイトリン嬢がファビアン王太子様から贈られたのと同じものだよ! ミルドの蒼玉と謳われるケイトリン嬢にふさわしいこの輝き、見てごらん!」


 行商人が、道端に並べたたくさんの指輪から、一番大きな石のはまった指輪を持ち上げて声を張り上げた。若い男女が集って人垣が出来ている。


 いきなり自分の名前を連呼され、ギースと並んで歩いていたケイトリンは目をみはった。行商人の手にあるのは、ファビアンから贈られた指輪とは全く違うものだ。


「まったく。行商人というのはなんでも商売に結び付ける輩ですわね。気になさる必要はありません。ただの商売ですよ。ケイト様」


 マノンは、二人の後ろを歩きながら耳打ちする。ケイトリンは「そうね」とうわの空で答えた。


 彼女の心を占めているのは、商売のために自分の名前を使う行商人でも、ファビアンから贈られた豪華な指輪でもなかった。


――どうしたの?


 ギースは、ケイトリンの顔を横から覗き込んで立てた人差し指を横に振った。


「なんでもないの。久しぶりに町に出たから、ちょっとびっくりして」


 ケイトリンは上手に笑ったつもりだったが、ギースには通じなかった。


――この間から元気がないね。ファビアン様が気に入らなかった?


「そ、そんなことないわ。私、元気よ。それにファビアン様を気に入らないだなんて」


――他に、気になる人がいる?


(気になる人・・)