[第3章:仮面の脅迫]


――ずいぶん賑わっているね。


「そうね。何かお祭りでもあるのかしら」


――君と王太子の結婚が決まったからかな。


「まさか、そんなこと」


 ケイトリンはそう言いながら、揺れる馬車の中からぐるりとあたりを見回した。さまざまな店が立ち並ぶ通りは、いつも大勢の人が行き交っているが、今日は確かにいつも以上に人通りが多く活気がある。


 ギースは、人差し指と中指を伸ばして下に向けると、人の足の動きを真似るように指を交互に動かして、ケイトリンに微笑みかけた。


 ケイトリンがギースと会話するときは、彼の口元を注意深く見つめて唇の動きを読み、彼の手の動きを目で追う必要があった。


 二本の指が指し示すのは“歩く”という意味の身振りであり、ギースは、馬車を下りて一緒に歩こうと提案しているのだ。さすがに、複雑な内容の話は紙に書いたが、ケイトリンとギースは、いつもこうして簡単な会話を成立させており、日常生活に困ることはなかった。


 ギースは先に馬車を下りると、ケイトリンの手を取った。


――気を付けて。


「ありがとう。大丈夫よ」


「申し訳ございません。ギース様」


 ケイトリンの後ろから、マノンが同じようにギースの手を借りて馬車を降りた。


「ケイト様が町に買い物にいらっしゃるのは、久しぶりでございますね」


「そうね。人ごみは苦手だけれど、町の賑わいは、楽しいわね」