レイフは、言葉に詰まった。


 幼い頃、ギースは同い年のアルフォンスやケイトリンと遊んでいることが多かった。しかし、ギースにとって年上のレイフは、何でも知っていて、何でもできる頼れる存在だった。そのため、困ったことがあれば、ギースがレイフを頼るというのが常で、当然立場的にはレイフが上のはずだった。


 しかし、最近ではどうもその立場が逆転しそうな気配だとレイフは感じていた。


「泣かせる気はないが・・」


 泣かせてしまうことになるのかもしれない、と続けようとするレイフの言葉を、ギースはわざと遮った。


「それにしても、怪我は大丈夫ですか? まだ完全に癒えていないのに。今日の舞踏会だっていつものように病気を理由に休むのだと思っていました」


「なんともないさ。ケイトリンの手当てが良かったからな」


「マノンの薬はよく効きますからね。熱もすぐに下がったし、別にケイトは関係ないと思いますよ」


「お前、いつからそんな嫌味なやつになったんだ?」


「昔からです。ケイトが関わった時だけですけどね。私はケイトの騎士ですから」


「そうか、そうだったかもな」


 確かに、ケイトリンの前では、ギースはいつでも勇敢な騎士だった。彼女を守るために、呆け者の仮面をかぶり、必死で生き延びてきたのだ。


「ところで、あなたの正体がケイトにばれていないでしょうか?」


「わからない」


 正体を知られれば嫌われるのではないかと思う反面、自分のことをよく知ってほしいと願う気持ちがあるのも事実だった。そのことで、危険性が高くなるとわかってはいても。


「呼びたければ、義兄さんと呼ばせてあげますよ」


「お前、実は俺の前でも正体を隠してるんじゃないのか? こんなに性格の悪い奴だなんて知らなかったぞ」


 レイフのあきれたような言葉に、ギースを笑みを浮かべた。