レイフの言葉を頭の中で反芻する。聞き間違えだろうか。だが、彼は確かに唇をいただいたと言った。


「唇って、どういう意味です?」


「なんだ、覚えてないのか? なら、思い出させてやろう」


 レイフはかがみこみ、一瞬で距離を詰めると、ケイトリンの顎に指をかけて持ち上げる。
そのまま顔を傾けると、軽く唇を合わせた。


(この感じ、あの時と同じ)


 昨夜暗闇の中で、唇に感じたのと同じ感触だった。一つだけ違うのは、紫の瞳がすぐ目の前で自分を捕えていることだ。


「口づけるのに、目を閉じることさえ知らないとは、本当に無垢なお嬢様だな」


 レイフは呆れたように言い放つと、窓から外の様子をうかがい、振り向いた。


「次に会うときは、俺たちは敵同士だ。情けをかけてはいけない」


「なぜです?」


「なぜかは、自分で調べてみることだな」


 レイフは、窓の隙間にするりと体を滑り込ませると、音もなく姿を消した。