婚礼衣装を着たままのケイトリンは、必死にドレスの裾をさばいた。何度も転びそうになったが、ファビアンに気遣う様子はない。それどころか、どんどん早足になって彼女を目的地に誘導する。


 ファビアンに付き従う近衛兵たちも、わけがわからずふたりの後を追う。


 王宮の端、もっとも北側にある古い建物の中に入ると、小さな庭に今は花をつけていない緑の枝が、所せましと大地に根を張っていた。


(まさか、ここは)


 覚えのある風景に、ケイトリンの脈がいっそう速くなる。


「開けろ! レイフに用がある」


「お待ちください」という兵士の声を無視して、ファビアンはどんどん奥へと進む。とうとうレイフの私室の前まで来たとき、低い声が響き渡った。


「ずいぶん騒がしいが、何事だ。・・ファビアン」


 無造作に前髪を掻き上げながら、開いた扉からレイフが姿を見せた。


「やぁ、レイフ」


 かなりの速度で相当の距離を歩かされたケイトリンは、レイフの顔をまともに見ることもできず、息を切らせながら左手で胸を押さえた。右手はなおもファビアンに握られている。


 その様子を一目見て、レイフは眉間にしわを寄せた。


「ファビアン様。いくらなんでもこんな突然の訪問は、失礼では」


 レイフの侍女が、恐れながらと進み出る。


 レイフは、それを手で遮ると、騒ぎに集まってきた兵士や侍女たちを下がらせた。