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 部屋に吊下げられたシャンデリアは、小ぶりの割に多くの蝋燭が灯され、大勢の侍女やお針子たちの姿を照らしている。


 その指揮を執っている年かさの女が、鏡に映ったケイトリンに向かって、顔に似合わない甲高い声を発した。


「まぁ、本当に素晴らしくお似合いですわ。これならきっと王太子様もお喜びになります。式典までに、もう少し宝石の数を増やしますから、当日はもっと華やかになりますよ」


「そうですね。みなさんのおかげです。ありがとう」


 まもなく王太子妃になるだろうケイトリンに感謝を述べられ、女たちは一様に胸をなでおろした。性格のきついジゼルの元で働いていた侍女の中には、ケイトリン付きになって喜ぶ者もいた。新しい主人はどうやら温厚な人柄らしい。


 ケイトリンは、鏡の中の自分に微笑んでみた。女の子ならだれもが憧れるような純白のドレス。それも宝石で装飾を凝らし金糸や銀糸の刺繍を施された華美なドレスを着た少女が、ぎこちなく微笑み返した。


 ケイトリンは、精一杯口角を上げた。頬がこけて青白い顔をした自分が、少しでも幸せな花嫁に見えるようにと祈りながら。


「おや、僕の花嫁はずいぶん美しく仕上がっているじゃないか」


 女性の試着中に勝手に侵入して許されるのは、まもなく夫となる人間だけだろう。


 ファビアンは、満足げに微笑むと、顎をしゃくりあげて合図をした。


 侍女たちは、ファビアンに一礼すると、床に散らばった裁縫道具や宝石箱を手早く片付け、部屋を下がる。