ファビアンは、レイフの背中側でいったん動きを止めると、彼の左肩にポンと手を置いた。


「怪我? なんのことだ?」


「あれ? 違ったのかな。以前、君がケイトリンと踊った時に、なんだか脇腹をかばっているように見えたんだよね。そうそう、盗賊はね、追手の矢を受けたらしいんだ。」


「それで? 何が言いたい?」


 レイフの眉がピクリと動いた。


「つい先日もね、盗賊が出たんだけどさ。馬丁の話じゃ、その日も君の馬がいなくなってたらしいんだよね」


「たんなる偶然だろう」


 ファビアンは、レイフの肩に手を置いたまま、彼の前に回り込んだ。


「もちろん偶然だろうとも。盗賊が出た日と君が夜中にいなくなってた日が同じだからって、君が盗賊だなんて思うはずないさ」


 そう言ってから、彼は両手をレイフの目の前でパンと叩いた。


「そうだ、僕も手伝うよ。盗賊を捕まえられなくて、王から罰がくだされたりしたらかわいそうだし。万一君に何かあったら、僕たちも哀しいからね」


 ファビアンは表情豊かに、“僕たち”に力を込めてしゃべる。


「まるで、私が死ぬような口ぶりだな」


「まさか! 君には僕たちが幸せになることろをぜひ見届けてもらわなくちゃ」


 無言のレイフに対し、ファビアンは目を細めて彼の耳元に顔を近づけると、先ほどまでとは打って変わり低くつぶやいた。


「せいぜい頑張ることだね」