謁見の間を出た瞬間、満面の笑顔で立っているファビアンがレイフを出迎えた。


「レイフ。王命を引き受けてくれたんだよね。僕からもお願いするよ。僕たちの結婚式までに、ぜひ盗賊を捕えて欲しいんだ。君ならできるんじゃないかと思ってね」


「なぜ私にならできると?」


 レイフは無表情で尋ねる。ファビアンはにやにやしながら近づき、レイフの顔を下から覗き込んだ。


「いや、君、なんだか夜中によく出かけているそうじゃないか。馬丁の話だと、馬にも乗っているんだって? それだけ健康なら、盗賊を捕えることもできるんじゃないかと思って、僕が父上に進言したんだよ。レイフは僕たちにとって、大切な従兄だからね。結婚式までに君が手柄を立てれば、世間も君を認めるだろ?」


「僕たち?」


「僕とケイトリンだよ! 僕が王になれば彼女は王妃となるわけだし、その従兄が世間からも認知されていないなんて、ケイトリンも気にしているよ」


 ファビアンは、言いながらレイフの周囲をぐるりと回り始める。


「なるほど。確かに馬に乗るくらいのことはできるし、王命だから引き受けたが、とても私に盗賊を捕えることなんてできないと思うがね」


 レイフは正面を見据えたまま、静かに答えたが、ファビアンはさらに面白そうに高い声を出した。


「そんなことないさ! そういえば知ってるかい? その盗賊は君と同じ紫の瞳をしているって噂だよ。それに、以前はケイトリンの家に忍び込んだらしいんだよ。そこで怪我をしたみたいなんだけどね。確か、君も同じころ怪我をしていたよね」