「…」



「もしもし?」



なかなか喋り始めない相手に少し苛立つ







「…あのっ蓮池と申します」








彼女だ






俺の心臓がどくんっと跳ねる





「兼元さんの携帯でよろしいでしょうか?」



丁寧に確認をされる





「はい。良かった、電話来ないかと思ってました。」




「連絡が遅くなり申し訳ございません。」



彼女は仕事中かと突っ込みたくなるような畏まり方だ…





「そんな畏まらないでください。」



俺の言葉に彼女はほっと息を吐き「はい」と答えた。





「俺にあなたとお話しするお時間はもらえますか?」


電話をくれたということは、チャンスがもらえるということだろう…





「…土曜日の午前中であれば、時間が取れそうなんですがどうでしょう?」




土曜日…明後日の午前中か…


随分とピンポイントだが


彼女のためなら無理くり空けるしかないだろ





「もちろん、大丈夫ですよ」



電話越しで見えない相手に最高の笑顔で答える





「9時にT駅前のSカフェでどうですか?」




待ち合わせは時間と場所を詳細に…



これ鉄則






「はい、大丈夫です。ではよろしくお願い致します。」




「ええ、楽しみにしています」



そう言って通話を切る。




携帯を机の上に置き、ビールを喉に流し込む





ふーーーー


っと長く息を吐き



っしゃ!




と1人ガッツポーズを決める











翌日の金曜日は土曜日のことが内心気になりソワソワしながらも張り切って早々に仕事を終わらせた。







「兼元さんっ」




帰り支度をし、エレベーターへ向かっていると突然呼び止められた。




振り返ると小柄で肩までの髪を内巻きにした女がいた




確か社内でも人気のある…総務部の女



名前は知らない





「何?」





「あの…ここではあれなのであそこでもいいですか?」


と指を差した先にあるのは自販機が置いてある休憩スペース



今は人はいないらしい