翌々日から小山内新社長は早速改革に取り組み始めた。

先ずは手始めに…と称し、玄関前に置いてある信楽焼の狸を外せと指示した。


「此処はリゾートホテルなんだぞ。旅館みたいなことをするな!」


……仰る通りです。
それは私も以前から不思議に思っていました。
どうしてホテルなのに狸なのかな……と。


「それからコレもだ!」


フロントへ続くアプローチに置かれた盆栽。
これは前社長の松富さんの趣味で、松とかサツキとか、苔玉なんかも置いてあったりする。

自宅にも沢山あったらしく、家ではなかなか手入れが行き届かないからと言い、いつの間にか此処へ置くようになったのだ。


「田舎に引っ込んだ前社長に送り返せ。着払いでだぞ。いいか、絶対に着払いにしろよ!」


付き人だと思っていたのは秘書だった。
岩瀬さんという名前だそうで、彼に向かって叫んでいる。

シルバーフレームの老眼鏡をかけた岩瀬さんは、「はいはい」と愛想のいい返事で引き受け、前社長の住所や電話番号を教えて欲しいとフロントへやって来た。


「小山内社長っていつもあんな感じの仕事ぶりなんですか?」


態度も大きいし言葉も荒っぽい感じがする。
ホテル業務には向いてないんじゃないの?と思って尋ねた。


「ええ、概ねあの様な感じですね」


差し出した前社長の住所や電話番号を書いたメモを受け取り、岩瀬さんは困ったふうもなく認める。