雨宮さんは私の髪を360度ぐるりと確認した。

「うんうん。2ヶ月経ちますし、そろそろ掛け直したほうがいいですね」

ごく自然に髪に触れられて、胸の中がざわついた。職業柄、普通のことなんだろうけど。

「また僕に担当させてもらえませんか?」

雨宮さんは恐る恐ると言った感じで言った。
断る理由は特にないので、別にいいですけど……と答えると、ほっと胸を撫で下ろして、良かったー!と犬ころみたいに、明るく笑った。

「あの、その代わり。今晩泊めてもらえませんか?」

交換条件だ。
マクドナルドとか、ネットカフェとかで始発まで時間を潰して、ボロボロのまま朝帰りするより幾分かマシだし。

幸い、彼の顔は嫌いじゃないし、誘われたらヤッてもいい。

美容師なんて、どうせみんなチャラいんだから。

「私、ちょっとのっぴきならない事情がありまして。今日は帰るところがないんです」
「で、僕の部屋ですか?」
「嫌なら結構です。ネットカフェにでもいくので」
「いやいや!それはダメです!危険です!僕の狭い部屋でよければ全然、上がっていってください!」

必死で私を引き止める姿が、可愛くて不覚にも笑みが溢れた。