「優梨……ッ!」

雨に打たれながらうずくまる私の前で、2本の足が立ち止まった。

「何してるの優梨、こんなに濡れて……」

顔を上げなくたってわかる。
この声はソウちゃんだ。

「……なんで、来るの」
「心配だったから」

顔を見る勇気はないけど、心なしか、怒っているような気がした。

「何でもないって言ったでしょ!放っておいてよ……」
「放っておけるはずないだろ」
「どうせ迷惑な女だと思ってるんでしょ!」
「思ってない」
「ソウちゃんは優しいから、断れないだけ」
「ちがう」
「いいの、もう会いに行ったりしないから」

自分が嫌で嫌で仕方なかった。

「……っとにもう、バカだな」

ソウちゃんは呆れたようにそう言って、ずぶ濡れでみっともない私を、強く抱きしめた。
ビニール傘がカラカラと転がる。

「迷惑だなんて思ったことない。いつも言ってるけど、優梨は特別なの」
「……っ」
「だから合鍵も渡したんだよ」
「でも、」
「とにかく、こんなとこに居ても仕方ないから、帰って話そう?」

ソウちゃんは私の手を引いて立ち上がらせた。

「タクシー、待ってもらってるから」
「……うん」

ただならぬ雰囲気を感じ取ったのか、タクシーの運転手さんは、雨に濡れた私達を何も言わず乗せてくれた。
後部座席で隣り合う私達の右手は繋がれたままで、ソウちゃんの手は、とても温かかった。