「もう泥まみれじゃん。素直に財布出せばいいのにさぁ」


美鈴が倒れている久志を見て笑い声を上げる。


香織も同じように笑い声を上げた。


あたしはなにも言えなかった。


拳を握りしめてグッと力を込める。


爪が肉に食い込んで痛むけれど、そうしていないと何かが爆発してしまいそうで怖かった。


「ほら、美鈴だってそう言ってんだろ」


正樹がそう言い、久志のわき腹を踏みつけた。


「ぐっ」


と、鈍い声を上げて久志の表情が歪む。


必死で体を折り曲げて自分を守っているけれど、正樹たちからの攻撃は容赦なく続く。


あたしは数歩後ずさりをしていた。


見ていられない。


このまま逃げてしまおうか。


そんな気持ちに囚われる。


久志も久志だ。


こんな目に合うのなら、さっさとお金を出してしまった方が楽になれる。


お金なんて、自分の命を守るためならいくらでも渡す事ができるはずだ。