「お前さ、金持ってんならさっさと出せよな!」


そんな声が聞こえて来てあたしの背筋は冷たくなった。


さっきのうめき声は、お金を恐喝されているであろう誰かの声だったのかもしれない。


あたしはゴクリと唾を飲み飲んだ。


このまま、何も聞かなかったことにしてトイレから出よう。


そう決心して右足を前に出す。


「やめろよ! 返してくれ!!」


悲痛な叫び声が聞こえて来て、あたしは足を止めてしまった。


あぁ、もう……。


こんな時に限って女子トイレにはあたし1人しかいない。


1人になりたくてここに来たのに、仲間がいればと思ってしまう自分が情けない。


それに、今の声。


同じクラスの高林久志(タカバヤシ ヒサシ)の声に似ていた。


お金を請求していた声は森藤正樹(モリトウ マサキ)だ。


どちらもC組の生徒だ。