あたしがいくら他人に優しくしたって、他人はあたしを嫌う。


偽善者だと指を指して笑う。


あの頃の事が蘇ってきて、叫びようになって目を閉じた。


ここまで来たんだ。


ここまで来たのに、すべてを台なしになんてできない。


「偽善でなにが悪い」


それは久志の声だった。


ハッとして目を開けると、久志が椅子から立ち上ってクラスの面々を見つめていた。


とても真剣なまなざしで。


「僕は蘭に助けられた。たとえそれが偽善でもなんでも、蘭は体を張って僕を助けてくれたんだ。


人に優しくして何が悪い? 本物の優しさと偽善の違いってなんなんだ? 偽善で誰かの心が救われたのなら、それは本物の優しさと何も違わないんじゃないのか?」


誰も、なにも言わなかった。


くすくすと笑い声を立てていた子たちは、気まずそうにうつむいている。