暴行を受けながらもヘラヘラと笑う久志。


その内だんだんと気持ちが大きくなっていったと言う。


こんなに悔しがっているなら、もう少しなにかできるんじゃないか。


そんな風に思って……。


気が付いたら、拳を握りしめていた。


人を殴ったことなんてないから、ヘロヘロのよわっちいパンチだったはずだ。


だけど、久志が握りしめた拳はしっかりと正樹の顔面に入ったのだ。


「一瞬、世界が止まったんだ」


あたしの入れた紅茶をひと口飲んで、久志は言った。


「スローに見えた。あいつの顔面に自分の拳が当たって、あいつが倒れるまでの瞬間が」


「すごいね久志、正樹を倒したんだ!」


あたしは嬉しくて手を叩いた。


「でも、きっと驚いて倒れたんだと思う。正樹の頬は少し赤くなる程度だったから」