久志が両親にイジメを告白しない一番の理由はそこにあったのかもしれない。


自分1人の力で現状を変えたい。


その気持ちが、彼を孤独にさせてしまっていたのかもしれない。


「久志はすごいね」


話を聞いていた早苗が不意にそう言った。


早苗はとても真剣な表情をしている。


「え、なんで?」


予想外の一言に久志が戸惑い、視線を泳がせる。


「だって、あの卑劣なイジメを自分でどうにかしようとしてたんでしょ? それってすごいじゃん」


それはごく当たり前の感想だった。


しかし久志は見る見る内に顔を赤らめていき、うつむいてしまった。


「あたしなら1日だって我慢できないよ。大人数で寄ってたかって攻撃されるなんて、絶対に無理。学校だって来ないし、親にだって速攻で相談してる」


早苗が冗談めかしてそう言うと、久志は赤い顔のまま笑った。


2人を見ていると、なぜだか胸がチクリと痛んだ。


あたしはもうすぐ、こんな素敵な2人ともお別れをしなければいけないんだ。


そう思うとうまく笑う事もできず、あたしは青空を見上げたのだった。