「お姉ちゃん、私、高校受験する」



少し涼しく感じる秋風が吹く登校途中、歩きながら姉の顔を見ずに言った。



「そう。決めたの?」



一瞬の間があったが、以前から相談してたからか、落ち着いた返答だった。



「うん。芸術科に行きたいの」


「でも、今の桜輪(オウリン)学園の高等部に進学して、卒業してから歌織(カオリ)の好きな大学に行ってもいいんじゃない?
私は、お父様の会社にいきたいから、お稽古も高校までってきめてるし、熊野のおばあ様の後は継がないわ」



ため息と微笑混じりで姉の唯歌(ユイカ)が言った。


「お姉ちゃんはお母様のあとを継ぐのね?
でも私は、高校で普通の勉強だけじゃなくて、専門分野も勉強したいの」



姉の言葉でも、初めて自分で大きな決意をした私の意志を変えることは、もうできない。



「おばあさまの後を継いで、家元になるつもりはないけど」


言いながら苦笑する。



桜輪学園はお嬢様学校として名高い。




今、私は中等部3年、姉の唯歌(ユイカ)は高等部1年で毎朝電車2駅を一緒に登校している。


学園の最寄り駅から歩いて10分ほどの距離を四季の木々の移り変わりを見ながら姉と歩くのは気持ちがいい。
小学部のころからの通いなれた道。



駅前の銀杏も桜並木の葉の色も変わろうとしている秋の晴れの日。


中3の私は、内部進学するか、外部受験するか決める時期でもある。



「そっか、じゃ、お父様とお母様を自分で説得するのね」



諭すようにそれでいて励ましてくれるが、両親を思ったのか苦笑いを含みながら言った姉の涼しげな目元は微笑んでいた。



何を言っても私の決心が変わらないであろうと悟っているようだった。