「じゃあ俺が、その元いる世界で目覚めることは……」
「今のところありませんね」
あっさりと返されたその声は彼を深い絶望に陥れた。この奇病は今のところ有効的な治療法が見つかっておらず、夢の世界にずっと閉じ込められることから、日本では本人の意思とは関係なく脳が強制的に意識を現実から遠ざけてしまう、「無意識的現実逃避症候群」と呼ばれている。
目覚める可能性もあるが、再発の可能性もありその後の社会復帰は見込めないという。その為に自殺してしまう人も少なくない。
そんな奇病に自分がなってしまうとは、思いもしていなかった。

「さぁ！ お喜びください！ もうすぐ着きますよ！ 学術と魔術の国、サーティアンヌ国です！」

その声が言うように真っ暗闇の中に出口のような白い光が見えてきた。訳がわからないままその方向に静かに歩き出すと、白い光はやがて彼を優しく包み込んだ。
未だに夢だと信じてはいるが、どうも奇妙な感覚があり、その感覚が彼にこの現状は夢ではなく現実だと教えているような気がした。
「受け入れるしかないのか……。こんな突飛な出来事を……」
諦めが彼を導きやがて希望に変える。
この先、どんなことになったとしても、元いた世界に戻る、夢のような世界から覚める方法があると信じて、彼は認めたくない気持ちを抑えて、現状と向き合うことを決意した。