リューを預け、元のところまで戻ってくると、元気なおじさんの声が聞こえてきた。

「さぁさ! いらっしゃいいらっしゃい! サーティアンヌ国で一番の魚屋だよ!」

城の近くにある城下町では、魚屋が競うようにお客を呼び込んで賑わっていた。
左右に分かれて魚屋は並んでいるが、取り扱う魚がそれぞれ違っていて、客も右往左往している。
アラトもチラっと覗いてみると、色鮮やかな魚が水槽でまだ泳いでいたり、切り開かれて売ってあったりと売り方も様々で、市場はこの世界に来て初めて面白いと思えた瞬間だった。

「いやいや! こっちの方が美味しいよ! 脂の乗った美味しいピアーサにアグラーナ!どうだい!」

魚屋がアラトの目の前にずいっと出したアグラーナという手足の生えた奇妙な魚は、マフユによるとこの時期でしか取れない旬の魚で調理法も色々あることから町の人には人気なのだという。

「買っていこう……。ギルドのメンバーもきっと喜んでくれる」
「ギルド?」
「うん。でも、多分アラトは入れない……」
「あー……いいよいいよ!全然……」

アラトが少し残念そうに笑うとマフユはお金を払い魚をしまって、アラトの手を繋ぎ走り出した。

「一泊。一泊なら許してもらえるはず……」
「シロキいいよ! 俺は一日民宿とか案内して貰えればそこで……っ!」
「アラトお金ない……。この国はお金の譲渡は犯罪に繋がるかもしれないからお店を出すか、奢るかしないと相手の為に使えないの」
「そうなんだ……っ!」

あまりにも早くマフユが走るものだから、アラトはうまく話せず、足を動かすことで精一杯だった。

「ついた」
「シロキ…っ…お前……現実でも…そんな足早いの……?」
「わからない。測ったことないから」
「えぇ?」