「いやぁ!マフユではないか! 久しいな!」
「ルーン王女様。お久しぶりでございます」
「そんなかしこまらずとも良い! 楽にせよ!」

謁見の間にきて暫く二人だったが、アラトの頭にはマフユの言葉がずっと引っかかっていて、マフユに改めて聞くのも気が引けて、沈黙が続いていた。
それを破るかのように勢いよく扉を開けて入ってきたのがルーン王女だった。
ルーン王女はマフユを見ると、たちまち笑顔になった。
アラトは王女様の顔が自分たちよりも幼いところから年下だと悟り、ふと、自分にもこれくらいの妹がいたことを思い出した。

「さて、異世界からきた勇者よ。サーティアンヌ国へようこそ! 我が国は其方を歓迎するぞ! さて、城に来たということは、『始まりの装備』を受け取りに来たのだな!」

ルーン王女がさっきの使用人に準備をさせると、アラトが突然膝をついた。


「王女様……!」
「うぬ?」
「俺は、勇者ではありません! 力もなにもなく、ただ目が覚めたらここにいたんです!ですから……!」
「勇者殿、わかっておるぞ。大丈夫だ。マフユも其方と同じようにある日突然我が国にやってきた。原因はわからぬが、ここは魔法の国。なにか奇妙な出来事があってもおかしくないと思っている。我が国は異世界の存在を認めているし、現に其方たちの他にも勇者としてやってきたものはこの国以外でもいると、他国からも報告は受けている」

そして王女は使用人から『始まりの装備』を受け取ると、それをアラトの前に差し出した。

「其方の恰好をみれば丸腰なのも見て取れる。其方の世界では勇者がどんなことをするのかがわかっているようだが、そんなことをなにもわからぬ其方にさせるわけなかろう。さぁ受け取るがよい」

始まりの装備、見た目は小さなガラス玉で、受け取ったその瞬間に相手に合わせて姿を変えるものだという。異世界の人間にのみ使うことができ、マフユの場合は細剣に姿を変えた。

「さぁ勇者殿、其方はこの世界になにをしに来たのだろうな」