そしてハザードを出すと、ゆっくりと車を路肩に止めた。

ハンドルに手を乗せたまま、ゆっくりとこちらに向けた顔は表情が消えていて。美しく整った樹くんの顔を初めて怖いと思った。

「柚珠奈、だれか好きになったの?」

「えっ?」

「理一君ではないんだろ?じゃあ、あの営業マン?それともあのガタイがいいほう?」

「急に何言ってるの?そんな事ある訳ないよ。だって二人とも今日初めて会ったんだよ!?樹くん、どうしたの?なんか変だよ」

冷たい顔と冷静で口早な質問が怖くて、怒ったように返事をしたら、樹くんが一瞬驚いたように目を見開いた。そしてゆっくりと目を閉じた後、大きく息を吐きだして照れたように笑ってくれた。

「そうだよな。ごめん、分かってるはずなのにな。ホントごめん」

「ううん、大丈夫。でもビックリしちゃった」

申し訳なさげな樹くんに、あえて明るく問いかけてみる。初めて”怖い”と思ってしまった樹くんにはもう戻って欲しくないから。

「うん、ちょっと柚珠奈の発言が予想外過ぎたのかな。今まで彼女作っていいって言われたことはあったけど、具体的に行動を勧められたことはなかったからね」