返事もせずにぼんやりとしていたら、樹くんがソファーに近付いてきた。

「何?もしかして具合悪いとか?」

両手で頬を挟んでそっと上を向けさせられると、目の前には整いすぎた樹くんのアップで。

「ちょっ、ちょっと近いって!樹くん、やっぱり距離感、おかしいよ」

樹くんの肩をぐっと押して顔を離してから文句を言った。
昔から、樹くんは私との距離感がやたらと近いのだ。他の人とはそんな事ないんだし、幼い時にべったりと遊んだ弊害かもしれない。

「全然返事しない柚珠奈がいけないんだろ?人に話しかけられて返事しないなんて、俺、そんな風に育てた覚えないんだけど」

「私だって樹くんに育てられた覚えなんてないもん!大体、同い年で育てられるわけないじゃん」

「そう?俺なら育てられそうじゃない?」

揶揄うように言ってるけど、私も樹くんなら育てられると思う。

ちっちゃい頃からキレイなだけじゃなくって頭脳もズバ抜けてた樹くんは、難関中学から高校、日本の最高学府まで楽々と進学していった。更に、今はそのまま進んで大学院生だ。
その上、運動神経も良くって。中学の時、頼まれて出た陸上大会では大会記録を塗り替えたって樹くんママが嬉しそうに話してたっけ。でも、おめでとうと言った私が拍子抜けするくらいに樹くん本人は興味なさそうで、熱心に勧誘された陸上部にも入らなかったけど。