「ううん、何でもないよ。ただなんか、ちょっと、ね」

言い訳にもならない理由しか言えない私の頭を撫でながら、樹くんが隣に座った。そのまま引き寄せて、私の頭を樹くんの肩に寄りかからせてくれる。

「無理に言葉にしなくていいよ。柚珠奈が疲れた時にはいつでも来たらいい。俺はいつだって柚珠奈を受け止めてあげるから」

胸に浸み込んでいく言葉と髪を撫でている手の心地よさに、気持ちが落ち着いていくのが分かる。

「ふふっ。なんか、樹くんって私の精神安定剤みたいだね」

「そうだよ。なんだ、今まで知らなかったの?俺は柚珠奈のためにいるのに」

「えー、その言い方はダメだよ。樹くんは樹くんのために生きてなきゃ」

まるで私だけのために生きてるって聞こえるセリフは、私の胸の奥深くに沈めたまま忘れたふりをしてる感情を思い出してしまいそうだ。
お説教するみたいに強めに言い切って、自分の心の変化をなかったことにする。

「‥‥‥まあ、いいよ。ところで夕飯は?なんか食べに行こう」

瞬間、声を少し低くした樹くんが空気を変えるような明るい声で誘ってくれるから、私も気付かないふりで答える。

「じゃあ、ラーメンがいいな!あっさり喜多方ラーメン。ほら、駅前の店の、さ」