でも私は蝶になっても誰かのものになれなかった。それもこれも樹くんのせいで。



中学生の時はお休みの日に出かけるだけだったのに、高校生になった樹くんはありえない方法で、もっと私との距離を詰めてきたのだ。

今でも覚えてる。
ある日突然、校門に学校中の女子が集まってて。キャアキャア騒ぐ声が辺りに響いてて。
どんな有名人が来てるのか、私も友達とミーハー気分丸出しで見に行ったんだ。

でも俳優でもモデルでもなかった。そこにいたのは、近隣でも有名な名門私立の制服に身を包んだ見惚れるほど美形な高校生男子。

「迎えに来たよ、柚珠奈。一緒に帰ろう」

周りにいる全員をうっとりさせる笑みを浮かべた樹くんが私に真っ直ぐに手を伸ばして来たんだ。

その微笑みは一瞬、世界を止めた。

誰もが一歩も動かない世界で、私に近づいた樹くんはゆっくり私の手を握り、そのまま歩き出した。

「た、樹くん!?なんで?どうしたの?ね、なんで、ここにいるの!?」

手を引かれたまま、我に返った私は樹くんに必死に問いかける。