思ってたより早く着いた理一君は、コーヒーを注文して、向かいの席に座った。

「私が出た後、すぐ出たの?」

「まぁな、自分から呼び出しといて待たせる訳にもいかないだろ。それに、俺も朝から落ち着かなかったし」

「打ち合わせだったのに?」

緊張で大きくなってきた胸の音をごまかすように、冗談めかして言ったら軽く睨まれた。

「仕事だからな。それに、今朝のは親父との打ち合わせだったから大丈夫だ」

「え、それって」

「あぁ、本社に戻る事の打ち合わせ。柚珠奈に振られても、戻る事は変わらないから。お前も振った相手がいつまでも上司じゃやりにくいだろ?」

「そ、そんな、やりにくいなんてことは」

「冗談だ。でも、振る事は否定してくれないんだな。やっぱり俺は振られるのか」

「あっ‥‥‥」

「いいんだ。昨日、時間を作ってもらえなかった時点で薄々気付いてはいたし。まぁそれ以前に勝ち目の薄い勝負だと分かってはいたが、何にも言わずに逃げるのは未練になると思ったからな」