騎士団長の仕事は多忙そうだから、疲れていてまだ寝ているのかもしれない。
いわゆる、寝坊だ。
だが、あのアルフレッドが寝過ごすことなどないと思いなおす。
いついかなるときも、しゃっきり一番に起きて、寝ている団員を蹴り飛ばして起こしそうなのだ。
きっと、ほかに用事ができたのだろう。
いないならば、ここでぼんやりしていても仕方がない。
シルディーヌは今日の仕事を開始するべく、部屋の入り口近くの壁に視線を移した。
そこには清掃スケジュールが貼られている。
シルディーヌが配属初日に提出したスケジュールに対し、アルフレッドが細かく手を入れたものだ。
『お前の、へなちょこな腕に合わせてある。だいたいこの通りに仕事をしろ』
へなちょこと言われて少しムッとしたが、新米侍女なのでなにも言い返せなかった。
かなり時間的な余裕を持って組まれていて、アルフレッドなりの気遣いがみえる。
そう、ひとりでも大丈夫なように……。
「う……なんだか、なにを言われるか想像できるわ」
お前はこの程度をこなせんのか?とか。
できないならサンクスレッドに帰れ!とか。
青い瞳に冷徹な光を宿して、イジワルく言うのだ。
これを見る限り、アルフレッドに交渉をしても無駄に思えてくる。
やっぱり増員は無理かもしれない。
まだ諦めてはいないが、握っていた拳は、すっかり力を失くしてしまっていた。
ふぅっとため息をつく。
と、部屋の扉が勢いよく開いて全身真っ黒な人が飛び込んで来たから、驚きのあまりにシルディーヌの全身が跳ねあがった。