南宮殿の使用人立ち入り禁止は、貴族院の議会を通して正式に解除されたものではないため、侍女長には人を動かすことができないという話だった。

そこでシルディーヌは不思議に思ったのだ。

ならばどうして、シルディーヌがあっさり配属されたのかと。

議会を無視できるほどに、黒龍騎士団の団長の力は強いものなんだろうか?


『あの、侍女長さま。議会の了承がないなら、一人たりとも立ち入ってはいけないんじゃないでしょうか? 騎士団長が独断していいものなんですか?』


首を傾げて問いかけると、侍女長は首を大きく横に振って、執務机の横にあるチェストの引き出しを開けた。


『今回の件は、王太子殿下からの承認があって、動いたものです』


侍女長は、これをご覧なさいと言って、一枚の書状を出して示した。

良質な薄紫色の台紙に貼られたそれには、侍女一名のみ使用人として南宮殿に立ち入ることを許可する旨が書かれてあり、フューリ殿下の印璽(いんじ)とサインがあった。

これは正式な王太子令であると、政治云々に明るくないシルディーヌにも分かった。

議会を通さずに王宮内の規則を曲げられるのは、国王陛下かそれに準ずる地位である王太子殿下のみらしい。

シルディーヌが黒龍殿の配属になったのは、まさに特例中の特例のよう。