ナダール王国にいる全ての女性が恋してしまいそうに思える。

そんな夢見心地で殿下に見惚れているシルディーヌのところに、従者のひとりが静かに寄って来た。


「発見いたしました。シルディーヌ殿、害虫とは、コイツで間違いありませんか。大変申し訳ありませんが、念のため確認をお願いいたします。心してご覧ください」

「……はい?」


ほわほわとした幸せな気分のまま従者の方に目を向ければ、例のアレが天に召された状態で紙屑の上に乗せられていた。

しかも二匹も。


「きゃああぁ」


涙目になったシルディーヌは気が遠くなるのを感じ、ふらりとよろけた。

すかさず伸びて来た腕に背中を支えられ、そのまま引き寄せられて、倒れるのを免れる。

ため息交じりに窘めてきたのは、毎度おなじみの低い声だった。


「お前は、仕方がないな。心して見ろと注意されたただろう」

「ご、ごめんなさい。でも、きっと、覚悟して見ても駄目だと思うわ」


おぞましさに身震いしつつも涙目のまま見上げると、アルフレッドは眉根を寄せた。

その怖い顔とは裏腹に、シルディーヌを包む腕はすこぶる優しい。

手のひらは華奢な背中をそっと撫でている。


「ふん、それなら仕事を辞めるか? アレは毎日出るかもしれんぞ」

「ううん、辞めないわ。頑張るって、決めたんだもの。きっと、アレにだって、そのうち慣れると思うわ」