ぽんぽんと子供をあやすように背中を叩かれ、大きな手のひらがそっと頭を撫でている。
「ほら、大丈夫だ。落ち着いて」
聞いたことのない声を耳にし、パニックを起こしていたシルディーヌの頭が冷静になる。
アルフレッドのように低い声でなく、張りのある高めのトーン。これは、誰だろうか。
「所用で立ち寄ったら、激しい物音と女性の叫び声を耳にして飛び込んで来たワケだが……アクトラス隊長、なにがあったか説明しろ」
「はっ! 清掃をしていましたところ、害虫が出てきたのでしょう。侍女のシルディーヌ嬢が驚き叫び、持っていた物をすべて投げつけ、走り出した次第であります!」
凛とした口調の腕の主に対し、アクトラスは直立不動で説明している様子。
シルディーヌの体を守るように包んでいる人物は、かなり位が高いと思える。
アルフレッドと同等か、それ以上の……。
シルディーヌの視界を埋めている服は、黒地に金糸の刺繍がほどこされている上等のものだ。
貴族院の貴公子かもしれない。
ひょっとして、これは運命の出会い!?
西宮殿から遠ざけられ、むさくるしい男の巣窟で働くあわれなシルディーヌに、神様がご褒美をくれたのかもしれない!
そう胸をときめかせていると、腕の主は声を立てて笑い始めた。


