アクトラスが声をかけると、みんな外へ出て行ってくれた。

アルフレッドの彼女だという設定は、仕事上では便利なようで、シルディーヌは複雑な気持ちになる。


気を取り直し、アクトラスに協力してもらって、片付けたテーブルの上に椅子をひっくり返して乗せる。

かなりの数があるため、シルディーヌの細腕ではこれだけでも重労働で、息が上がってしまった。

それからそこかしこに落ちている紙屑などのごみを拾っていき、最後に隅っこの方に固まっているごみの山に目を向ける。

体を拭く布のようなものや娯楽用の書物や紙屑などがあるよう。

勇気を振り絞って茶色く変色した布を拾ったその時、衝撃的なものがそこにあった。

ガサガサと動く黒いアイツがそこに潜んでいる。

シルディーヌは驚きのあまりに動くことができず、長い触角をゆらゆらと動かすソイツとしばらくにらみ合っていた。

だが、おもむろに動き出したそれが、あろうことかシルディーヌの方へ向かって来たから大パニックになる。


「きゃあぁぁぁっ! いやあぁぁぁ!」


手に持っていたものすべてを投げつけて逃げ出した。

アクトラスがなにか言っているようだったが、まったく耳に入らない。

とにかく逃げる。

それしか頭になく扉に向かって走っていくシルディーヌの体が、急に目の前に現れた人の体にぽすんとぶつかった。


「ぎゃっ」


しこたま鼻をぶつけてしまうがその痛みを紛らわす時間も、相手が誰か確認する間もなく、シルディーヌはすっぽりと腕の中に入れられてしまった。