「副社長、私は海外事業部へ寄ってから行きます。」



彼女ではなく、秘書として声を掛ければ、案の定、睨まれた。


気にすることなく、海外事業部の階でエレベーターを下りて副社長へと頭を下げる。



「副社長、後ほどお伺いします。」


「…………。」



周りの視線を無視して、陽輝の席へと向かった。本当は今じゃなくても良かったが。



「朱里さん?」


「ごめん、早すぎたかな?資料は出来てる?」


「もう少しだけ。」


「ごめん、逃げたくて。ついつい来ちゃった。」


「兄貴?」


「まあ。」



曖昧に答えて、陽輝の隣に立って仕事を見守る。



「松井さん、座りますか?」


「いえ、直ぐなので。」



立ち姿が目立つのか、椅子を進められてしまうが、本当に直ぐに戻らないといけない。


腕時計をチラリと見た。



「朱里さん、後で来る?」


「ううん、副社長へ持っていかないと何を言われるか………。」


「はいはい。」



陽輝がカタカタとPCを打つ姿を見つめる。