まったく信じていない様子の向居。
お見通しだと言わんばかりに、口端が上がっている。

…なんだか、向居、さっきとちょっと雰囲気が違う、かも。

瞳にいつものキレがない。どこか、とろんとしているような…。

まさか、酔ってる?

不意に向居が屈んだかと思うと、壁に片手をついた。
しゃがんでいた私は、向居に逃げ場を奪われた状態になる。

な、なにこの状況…?

動揺する私に、向居の顔が近付いてきた。


「まったく、俺のなにがそんなに嫌いなんだ?」


どこか独り言のようにも聞こえる向居の声は、ひときわ低く、色気があった。


「言えよ。嫌われるなんて、そういい気分じゃない」


やっぱり、酔ってる。

少し舌足らずになっているのが証だ。
けれども、声には有無を言わせぬような重みがあってーーー。


「嫌ってないってば…! 考えすぎよ」

「考えすぎか。なら、いいんだがな」