ぎょっとして、つい見上げると、向居が私を見下ろしていた。

向居も風呂上りの姿だった。
と、分かったのは、少し湿った前髪が無造作に目にかかっていたからだ。
それがまた、いつもと違った雰囲気で…なんか色っぽい…って、なに目を逸らしているのよ。

と言うか、すっぴんでしょ、私!

顔が火照ってきた。
一人で焦る私に、向居が微笑んだ。


「へぇ、すっぴんもけっこういいな」

「か、からかわないでよっ!」


ほとんど悲鳴に近い声の私に、向居はきょとんと器用に肩眉を上げた。


「女のすっぴんをからかうほどガキじゃないよ、俺は」

「…」

「いい女を前にしたら、素直に褒める」


完全に返答に困ってしまう私。
思わぬお褒めの言葉をいただいて、頭がショートしてしまったのか、逃げなきゃ、という切迫感が薄らぐ。
向居は柔らかく微笑んだ。


「なんて、俺の株が上がるようなこと言ってみた。都は俺のこと完全に嫌っているので」

「…だから、嫌ってなんかないって言ったじゃない」

「それはよかった」