オプションは偽装交際!~大キライ同期とラブ・トラベル!?~

茫然と呟いた私を、柊介が力強く抱き寄せた。

「やったな都! やったな!」
「ん……」
「俺達に子どもができたんだぞ!」
「ん……んん」

変な返事しかしない私を、柊介が訝しげに見た。

「どうした?」
「ちょっと……びっくりしちゃって」
「そうだな、俺もびっくりだ。嬉しくてたまらないよ。俺は早く欲しいって思っていたから」

ぎゅうと抱きしめてくれる柊介。
その力強さにきゅんと甘く疼くものを感じながらも、私の胸ではまだ同じような純粋な喜びが浮上できずにいた。

もちろん子どもは欲しかったから避妊はしていなかった。
だから、こんなに驚いているのもおかしな話だ。柊介のようにただ素直に喜べばいい。なのに――。

どうしよう。

そんな言葉が私の頭の中を回っていた。

まだまだ仕事をがむしゃらにしていたい。目指したいことが一杯ある。
間違いなく今よりかは仕事に注ぎ込む馬力が落ちる。
部下を面倒見ながらステップアップを狙うことも、柊介と一緒に新しい仕事に打ち込むこともできない。

こうなることは解かっていて避妊していなかったはずなのに。
妊娠したらちゃんと向き合おうって覚悟していたはずなのに。

いざその事態が来たら、戸惑ってしまっている。
まだ早い。だけど……って、揺れてしまっている。

苦しいような、腹立たしいような、泣き出したくなるような感情に襲われる。

どうして私は、いつもこうなんだろう。

「どうした、都」

柊介の手が、ぽんと私の頭に乗った。
こんな時、柊介はいつも私の心を見透かしてしまう。
この男は本当に、何から何までハイスペッグなのだ。

「仕事が不安か?」

素直に私はこくり、とうなずく。

「赤ちゃんができたのは嬉しいわ。私と柊介の子よ。こんな奇跡はないわ。でも、仕事もしていたい。今までのように没頭していたいの……。わがままよね。こんな私、子どもを育てる資格ないわよね」
「そんなことを考えていたのか」

あっけらかんと笑いながら、柊介はぎゅうと私を抱きしめた。

「都は器用なくせに、こういう時は不器用だよな」
「……」
「どうしてどちらかを取らなきゃって思うんだ? どちらも取ればいいだけじゃないか。俺がいるだろう?」
「……柊介」
「仕事と子育て。やることが二倍に増えたってどうってことないだろ。俺と都の二人で向き合うことなんだから。二倍を二人で分け合う。そしたらまた元通りだ」

柊介は言い含めるように、ゆっくりと続けた。

「幸いうちは制度が充実している。俺も育休を取るよ。仕事も少しセーブする」
「そんなことをしたら昇進に」
「俺が競争に負けるとでも? 軍師様も認めるハイスペッグであるこの俺が?」

笑いを含んだ声は、けれども力強く自信に溢れていた。

「都独りに背負わせたりなんかしない。だって俺達は夫婦なんだから。二人の道は、二人で歩いて作っていこう」

その優しい言葉が胸に染み込んで、涙となってぽろりと零れた。

そうだった。
柊介の言う通りだ。