オプションは偽装交際!~大キライ同期とラブ・トラベル!?~

新企画の打ち合わせは長丁場になり、一息ついた頃に一同でコーヒーブレイクとなった。

一旦仕事モードになれば、私と柊介の間にプライベートは存在しない。

「向居の言うことも分かるけど、コンセプトにはA案の方がかなっているでしょ?」
「いや、カスタマーの便宜性を考えると、向居が解釈するコンセプトは……」

と、私と柊介が意見交換に熱を入れていると、

「向居先輩」
「はい?」
「うん?」

話し掛けられたので、私と柊介は同時に振り返った。
すると、異動してきて間もない後輩が、私達二人に見つめられてぎょっとなった。

「あ、あのコーヒーお持ちしたんですが、カフェラテは、向居先輩でしたよね?」
「ええ私よ。ありがとう」
「い、いえ。じゃあブラックは……向居先輩ですね」

「サンキュ」と受け取ると柊介は後輩に笑った。

「まぎらわしいよな、『向居』が二人だと」
「は、い、いえ……!」

後輩は、真っ赤になってかぶりを振った。

「ご夫婦で企画を任されるなんてすごいですよね。憧れちゃいます。お二人とも公私をしっかり分けられているし」
「でも名字が一緒なのは、周りの人間にとっても不便だろ? いっそ、妻のことは向居夫人って呼ぶのはどうだ?」
「ば……! ふざけてるのしゅ……向居?」
「だって『都さん』じゃ姉御みたいだろー?」
「アネゴ!?」

私達のやりとりを見て、くすくすと後輩が笑う。
もう、せっかく公私を分けているって褒めてもらったのに……!
こんな私達のやり取りが密かに夫婦漫才って言われているの、知っているくせに、柊介ってば!

そんなこんなで、今日も一日が目まぐるしく過ぎて行った。
いつもは残業していく私と柊介だったけれど、今日は珍しく二人して仕事がひと段落したので、一緒に定時で退勤した。

ビル群にチラホラと照明が灯り始める。
コンクリートに囲まれた無機質な帰路も、何故か今は奇麗に見えた。

会社を出て、地下鉄駅の入り口に入れば、柊介がぎゅっと手を握ってくる。

私と柊介との取り決め。
駅の出入口が公私の境界ライン。

この時間からは、夫婦モードの始まりだ。